退職させてくれないのは違法?対処法やよくある辞められない状況を紹介

「体力的に仕事がきつい」、「ノルマに追われるのが嫌」、「会社としての見通しが暗い」など様々な理由から会社を辞めたいと思っている方がいるのではないでしょうか。いずれ退職したいと思っていても、先に退職しようとした人が引き止めに遭っている姿を見て、「簡単に辞めさせてくれないの?」と感じる人もいるはずです。
結論から申し上げますと、退職させてくれないのは違法です。そして、スムーズに退職するにもいくつかコツがあります。
本記事ではスムーズに退職したい方のために、退職させてくれないよくあるケースや退職させてくれない場合の対処法などをご紹介します。本記事を読むことで、計画的に退職を申し出ることができ、スムーズに退職ができるようになるでしょう。
ぜひ最後までご覧ください。
会社を退職させてくれないのは違法
冒頭でご紹介した通り、会社を退職させてくれないのは違法です。「なぜ違法なの?」、「どこからが違法で、どこからが合法なの?」と思われる方もいるでしょう。
ここからは違法の理由や違法と合法の境界線についてご紹介していきます。
職業選択の自由が保障されている
退職させてくれないことが違法である最大の根拠は職業選択の自由が保障されていることです。
職業選択の自由は憲法第22条で定められており、やりたい職業を選ぶことができます。また憲法第18条では「奴隷的拘束の禁止」も定められており、会社側が無理やり退職させないようにする行為は憲法違反であり、明らかに違法です。(※)
憲法において労働者に対しては「退職の自由」があることは明らかであり、退職をすぐに認めてくれない状況は間違いなく問題であると言えるでしょう。
民法によって退職意思を伝えた2週間後に辞められる
会社には就業規則があり、就業規則を盾にして退職を認めようとしないケースもあるでしょう。しかし、就業規則は会社内のローカルルールに過ぎず、法律の方が優先されます。民法627条1項では、「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と書かれています。(※)
例えば、就業規則において「退職したい日の2か月前や3か月前に申し出を行うこと」と書かれていても民法が優先されます。退職したい日の2週間前に退職したい旨を申し出れば会社側は申し入れを受け入れなければなりません。
民法の場合でも同様に、会社側が退職を認めようとしない行為は違法であることがわかります。
引き止め程度なら違法にならない
一方で会社側にとっては「貴重な戦力」を失いたくないものです。そのため、「考え直してくれないか」など退職しないようにお願いされるケースも存在します。管理職の立場からすれば、「こうした引き止めも違法なのか」と不安に思う方もいるはずです。
引き止め程度であれば違法ではありません。明らかな違法のケースは以下の通りです。
- 後任が見つかるまで辞めさせない
- 辞めるのは認めるが、発生している給料を支払わない
- 辞めるのは認めるが、有給休暇を消化させない
- 懲戒解雇の扱いにする
- 損害賠償をすると脅す
違法となるのは退職しないように脅しをかける行為であって、「考え直してくれないか」などのお願い、要望レベルであれば違法ではなく、再度退職の意思を示した際に退職を許可すれば問題にはなりません。
意地でも辞めさせないなど退職させないように権限を行使するような行為が違法になると考えられます。
退職させてくれないよくある状況
会社側の立場から退職させないケースを考えた際に以下の状況が想定されます。
- 繁忙期で忙しい
- 人手が足りていない
- 離職率を上げたくない
- 上司が自分の評価を落としたくない
会社側としては人員に余裕がない場合にさらに追い打ちをかける事態を避けたいと考えているほか、会社の評判、上司自身の評価を下げたくない場合に退職を認めたくないケースが生じやすいと言えます。ここからはそれぞれの状況について解説します。
繁忙期で忙しい
1つ目は繁忙期で忙しい場合です。
業種によっては繁忙期になると「猫の手も借りたい」状況になり、アルバイトなども駆使して乗り切ろうとするケースがあります。そんな中で、繁忙期で退職されると穴埋めが難しい状況において、「もう少し待ってほしい」と退職を申し出た従業員に待ったをかけるようになります。
有給休暇を使う場合は会社側に時季変更権が認められており、「人が足りない」、「調整が難しい」などの理由で行使が可能です。しかし、退職の際に時季変更権は認められておらず、退職時期を変更させることはできません。
繁忙期に退職すること自体は合法であり、繁忙期で忙しいから退職は認められないと会社側に言われたケースは明らかに違法です。
人手が足りていない
2つ目は人手が足りていない場合です。
様々な要因から退職者が相次いだり、新卒者が入って来なったりして人手が足りないケースはどの職場でもあることです。その状況において退職を申し出ると、「中途採用者が入ってくるまで待ってほしい」、「これ以上抜けられると仕事が回らない」などの理由で引き止められることがあります。
しかし、人手不足の時は退職できないというルールはなく、どういう状況であれ退職の申し出があれば2週間後に退職できるのが民法のルールです。また人手が足りていないことは個々の労働者にとっては関係なく、会社側の責任と言えます。
優しい方だと「人手が足りていないからもう少し待ってほしい」と言われて退職を先延ばしにする方もいますが、ズルズルと先延ばしになっていく可能性もあるため、時に優しさを捨てることも必要となります。
離職率を上げたくない
3つ目は離職率を上げたくないという理由です。
会社によっては離職率を公表しているところがあります。求人票には過去3年の採用者数・離職者数の項目があり、おおよその離職率をチェックできるようになっています。公表しなくても特に問題はありませんが、「公表できないくらいに離職率が高いのか」と思わせないよう、離職率を公表する会社も存在します。
離職率を上げたくない場合に、「辞めるのは年度をまたいでからにしてほしい」などの要望が出てくるでしょう。しかし、「離職率を上げたくないから」という理由は明らかに会社側の都合です。会社側の都合に付き合わなくても問題ありません。
上司が自分の評価を落としたくない
4つ目は上司が自分の評価を落としたくないケースです。
会社によっては部下が退職することで上司の評価が下がってしまうところがあります。人材を確保するにもコストがかかり、新たなコストが生じることへの評価の低下や部署全体のノルマ達成に影響が生じ、結果として責任者である上司の評価が落ちるなどのケースが考えられます。
自分の評価を落としたくない、もしくは「部下を辞めさせるダメな管理職」というレッテルを貼られたくない思いから強く慰留してしまうケースがありますが、このケースは上司の都合であり、部下にとっては全く関係ありません。
上司が自分の評価を落としたくないケースでは、色々な泣きを入れ、同情を誘う言葉を投げかけることも考えられますが、「そんなことは関係ない」とばかりに突っぱねましょう。
退職したくても辞められない事例
労働者側が退職を申し出ても、会社側が様々な理由で申し出を拒んだり、先延ばしするなどの事例が見られます。退職の申し出を行う際にどのような事例があるのか、以下にまとめました。
- 損害賠償を請求される
- 懲戒解雇処分にされる
- 退職届を受理してくれない
- 給料が支払われない
- 有給休暇を消費させてくれない
- 就業規則に違反する
- 違約金が発生する
どのケースも半ば脅しのようなものであり、結論から申し上げますとすべて違法な引き止めです。どのような理屈で退職の申し出を拒まれるのか、1つ1つご紹介してまいります。
損害賠償を請求される
1つ目は損害賠償を請求されるというやり口です。
正社員の場合、民法627条1項で退職したい日の2週間前までに退職の申し出を行えば、法律上は退職が可能なので、仮に損害賠償請求を行っても合法的に辞めているため、損害賠償の請求をしようがありません。
ただし、以下のケースでは損害賠償の可能性があります。
- 退職の申し出後すぐに無断欠勤を行った
- 別の同僚に「一緒に退職しよう」と勧誘などを行った
- 会社が費用を出して参加した研修後間もなく退職
- 2週間前の申し出をせずに退職しようとした
- 会社に損害を与えるトラブルを起こした
いわゆる即日退職は民法上は難しく、会社からの合意がない限りは認められず、損害賠償の対象になってしまう場合があります。また退職日までの無断欠勤を行うことで損害賠償請求をされてしまうこともあるでしょう。
損害賠償請求をされないようにするには少なくとも退職したい日の2週間前までに退職の申し出を行うこと、そして、無断欠勤にならないよう退職日までの過ごし方について話し合いを行うことなどが求められます。
懲戒解雇処分にされる
2つ目は懲戒解雇処分にされてしまうことです。
退職したいと申し出たら突如懲戒解雇処分を食らうケースが実際に存在します。実際に言われた労働者はいきなり懲戒解雇を突きつけられて怖くなり、泣く泣く辞めずに続けてしまう人もいますが、明らかに違法です。
労働契約法第15条で、懲戒解雇を行う際、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効になると定められています。退職の申し出だけでは明らかに客観的に合理的な理由は欠いており、懲戒解雇処分は無効になります。(※)
仮に解雇にする場合は解雇したい日の30日前に解雇予告を行うか、最低30日分の解雇予告手当を支払わないといけません。いずれにしても、退職の申し出を理由とした懲戒解雇処分は明らかな違法と言えます。
退職届を受理してくれない
3つ目は退職届を受理してくれないことです。
刑事ドラマなどで主人公が出した退職届を上司が預かっていて、事件が解決したら上司が退職届を目の前で破るシーンを見た方もいるのではないでしょうか。またありがちなケースでは上司が退職届を受け取らないこともあります。このように退職届を受理してくれないケースも違法です。
労働者には「退職の自由」があるので、会社側の都合で突っぱねることができないからです。では、退職届を受け取ってくれない時、どのような対処が必要かですが、それは内容証明郵便で退職届を送付する方法です。
たとえ会社側が受け取らなくても、退職の申し出を行った事実が証明されれば送付後2週間で退職が可能になります。内容証明郵便も拒否されたら、その事実を労働基準監督署などに出向いて相談すれば様々な対応につながっていくでしょう。
給料が支払われない
3つ目は給料が支払われないことです。
退職後、本来振り込まれるであろうタイミングなのに給料が振り込まれず、給料が支払われないケースがありますが、この場合は労働基準法第24条で全額支払うことを定めており、給料の未払いは違法です。(※)
また労働基準法第24条に違反することで会社側に罰金刑が処される場合があるため、退職後に給料が支払われない時点で速やかに内容証明郵便を送るなどの対策が必要です。
有給休暇を消費させてくれない
4つ目は有給休暇を消費させてくれないことです。
先ほどもご紹介しましたが、有給休暇を使う場合は会社側に時季変更権が認められており、この権利をチラつかせるケースが考えられます。しかし、退職が決まった時点で時季変更権は認められません。
労働者が有給休暇の取得を申告した時点で会社側は有給休暇の取得を認めなければならないのです。有給休暇の取得を認めない行為も労働基準法違反ということになり、違法となります。
就業規則に違反する
5つ目は就業規則に違反するケースです。
就業規則で、退職したい日の2か月ないし3か月前に退職の申し出を行うよう定めており、それまでに退職の申し出をしていないという理由で、就業規則に違反していると指摘し、退職を認めないケースが考えられます。
こちらも先ほどご紹介した通り、就業規則はあくまでも会社内で通用するローカルルールに過ぎず、民法など法律が優先されます。民法では退職したい日の2週間前までに退職の申し出を行えば2週間後に退職が認められるルールです。就業規則に違反していたとしても民法のルールに照らし合わせて行動すればよく、無視して問題ありません。
違約金が発生する
6つ目は違約金が発生することです。
正社員になってまだ1年に満たない社員が退職する際に違約金を支払うよう求められるケースがあるなど、退職するなら違約金を支払えと迫り、退職しないように仕向けることも考えられます。
労働基準法第16条で労働契約の不履行について違約金を定めることを禁止しており、違約金を請求することは法律違反です。(※)
参考:厚生労働省「Q3 新規採用の際に、「3年以内に退職した場合は、会社に対し50万円を支払うこと」を内容とする労働契約を結んでもいいですか。」
退職させてくれない時の対処法
あからさまに法律違反、違法行為があるほか、良心に訴えかけるような形で退職を待ってもらう、先延ばしをお願いするケースもあります。スムーズに退職させてくれない時の対処法として以下の方法が存在します。
- 退職する意思を明確に伝える
- 納得させる退職理由を伝える
- 労働基準監督署に相談する
- 退職代行サービスを利用する
基本的には退職の意思を強く持ち、そのことを伝えることが大事であり、退職の申し出を行う際に会社側が説得を諦めるような退職理由を事前に考えておくことが重要です。
話し合いで解決できない場合には、労働基準監督署や退職代行サービスの活用を行う形になります。ここからは4つの対処法について解説します。
退職する意思を明確に伝える
1つ目の対処法は退職する意思を明確に伝えることです。
退職の際には明確に退職したい旨を伝え、退職届を提出することで退職の意思をはっきりと伝えられます。その後過度な引き止めなどでトラブルになっても、退職の意思は既に示されているので2週間すれば退職が可能となります。
上司が退職届を受け取らない場合は、その上司を統括するさらに上の管理職のもとに退職届をもっていくことも1つの手です。それでも受け取ってもらえない場合は内容証明郵便で法的に退職の意思を証明することも大切になります。
納得させる退職理由を伝える
2つ目の対処法は納得させる退職理由を伝えることです。
「体調を崩してしまった」、「家族の介護をしなければならない」、「育児に手が回らない」など辞めざるを得ない理由を用意することで会社側に納得してもらうことができます。
この時、本当のことを言わなくても問題なく、心の底では「給料が安い」、「休めない」と思っていても会社に対するネガティブな発言を行う必要はありません。逆に交渉の余地を与えてしまい、退職が長引く可能性があります。
労働基準監督署に相談する
3つ目の対処法は、労働基準監督署に相談することです。
労働基準監督署は労働基準法などを遵守しているかをチェックする機関であり、相談などを受けて調査に乗り出すこともあります。法律違反を犯せば会社側がペナルティを受けるケースもあるため、労働基準監督署が動けば多くの企業はその時点で諦めようとします。
ある程度会社側と交渉を行い、状況が変わりそうにない場合は労働基準監督署に相談を行い、今後できる事などを聞いてみるほか、実際に動いてもらうように働きかけましょう。
退職代行サービスを利用する
4つ目は退職代行サービスを利用することです。
退職代行サービスは本人に成り代わって、専門家などが会社側と交渉を行い、退職までの段取りをつけてくれます。他にも有給休暇の取得を始め、未払いの給与の支払いなど、金銭的なところにも対応してくれるのが退職代行サービスです。
当事者間では感情的な対立もあり、話し合いがなかなか進まないこともあります。第三者の立場である退職代行サービスを利用することで冷静な話し合いを行い、退職までのプロセスがスムーズなものになるでしょう。
退職させてくれるようになった時の円満に辞める進め方
明確に退職の意思を示したり、退職代行サービスを利用したりすることで、なんとか退職までの段取りがついたら、あとはもうひと踏ん張りです。円満に辞めるための進め方があります。
- 退職届を提出する
- 引継ぎを行う
- 貸与物を返却する
- 上司や同僚に感謝を伝える
スムーズに退職をするには、できるだけ周囲に迷惑をかけず、最大限の配慮を行うことが求められます。退職を判断してもらうまでに多少ひと悶着があっても、長い間一緒に働いた仲間であることに変わりありません。その部分を配慮していくことが求められます。
退職届を提出する
まずは退職届の提出です。
退職届を出すことは退職の意思を明確に示すことになるため、会社側は受け取るほかありません。退職届を提出した時点でいつ辞めるのかの話し合いとなります。できれば就業規則に合わせる形がベストですが、民法上のルールである2週間後の退職でも大丈夫です。
あとは残っている有給休暇の消化などの話し合いを重ねて、最終的な出社日を決めます。
引継ぎを行う
次に行うのは引継ぎです。
それまで担当していたエリアや取引先、仕事などを後任に引き継いでもらうための作業を行います。引き継ぎは通常の業務と同時並行で行うため、退職日まではいつも以上に忙しくなる可能性が高いです。
計画的に退職を検討する場合、引き継ぎをスムーズに行うためにマニュアルを作成したり、資料をわかりやすくまとめたりして引き継ぎ業務をできる限りシンプルにさせるのも1つの手です。特に有給休暇の消化をしたい場合にスムーズな引き継ぎは必須です。
貸与物を返却する
3つ目は会社からの貸与物を返却することです。
働く際には様々な備品を会社から与えられるため、返却します。例えば、オフィスに入るためのIDや保険証、仕事用のスマホ、ノートパソコンなども返すことになるでしょう。制服を着用している場合には、制服も返却することになります。
万が一返すのを忘れた場合、後日返却をすることになり、余計な手間がかかるため、事前に会社側から借りているものをリストにまとめて1つずつ整理していくのが確実なやり方です。
上司や同僚に感謝を伝える
最後は上司や同僚に感謝を伝えることです。
円満退職である以上、あくまでも自分の都合で会社を辞める形が理想的であり、会社のグチや同僚への不満、嫉妬などを言いながら去るのは周囲も気分が悪いですし、せっかく築いた人脈が台無しになってしまいます。
「立つ鳥跡を濁さず」ということわざもあるように、誰しもが会社や同僚への不満を持っていますが、最後は自分を成長させてくれたことへの感謝の気持ちを周囲に伝えて退職するのが理想的な辞め方と言えます。
どうしても退職させてくれない場合は退職代行を利用すべし
会社側と話し合いを行い、最終的に退職を認めてくれるのが一番の理想形です。しかし、「エース級の働きをしてくれている」、「これ以上抜けられると部署が回らなくなる」など様々な理由から最初は高確率で慰留されます。その際に明確に退職の意思を伝え、納得させる退職理由を言えれば多くのケースでは退職を認めてくれるでしょう。
それでもなお退職させてくれない場合には退職代行サービスを利用することをおすすめします。スムーズな退職につながるほか、精神的に疲弊することなく、再転職に向けて切り替えていくことができます。
最初から退職代行サービスを利用するのではなく、あくまでも奥の手として温存しておくのがよく、初めて退職の意思を伝えるところから活用するのは円満退職につながりにくいので避けましょう。話し合いを重ねても歩み寄る姿勢が見られないなど、当事者間では交渉が進まない時になって利用することで、退職代行サービスの本領が発揮されるのです。