退職代行の運営元には、民間・行政書士・弁護士などさまざまなものがあります。実際に利用しようと思っても、さまざまな種類があるために、どれが良いのか分からず悩んでしまうでしょう。退職代行を選ぶ際は、運営元によって得意分野や対応範囲が大きく異なるので、運営元ごとの特徴を知っておくのが大切です。本記事では、行政書士が運営する退職代行について、対応範囲や料金相場などを解説します。弁護士・社労士・司法書士などとの比較もしますので、退職代行の業者選びに悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
行政書士が運営の退職代行とは
行政書士が運営する退職代行は、書類作成を得意とする代行サービスです。そもそも行政書士とは、官公署に提出する書類を作成したり、書類提出を代理で行ったりできる国家資格者を指します。退職代行においては、退職届や内容証明書の作成・送付を行えるのが特徴です。弁護士より対応範囲が狭いものの、料金が高すぎず、利用しやすいのも特徴でしょう。また、法律で守秘義務についての定めがあるので、退職代行を利用したことが代行業者からバレる心配もありません。こうした書類作成や守秘義務に関する点が、行政書士が運営する退職代行の魅力といえます。
民間の退職代行との違い
行政書士と民間退職代行の主な違いは、退職届が作成可能かどうかです。そして代行料金の相場にも違いがあり、行政書士のほうが20,000円ほど高い傾向があります。行政書士と民間退職代行の違いについて、料金相場や対応範囲などの違いをまとめると、以下のようになります。
民間の退職代行 | 行政書士の退職代行 | |
運営元 | 民間の退職代行業者 | 行政書士 |
料金相場 | 10,000〜30,000円 | 30,000〜50,000円 |
対応範囲 | 退職意思を会社に伝える
細かな交渉は難しい |
退職意思の伝達
退職届の代筆 |
得意領域・特徴 | 安いので利用しやすい
業者数が多い LINEでの問い合わせに対応している業者が多い |
退職届をはじめとした書類作成が得意
内容証明書の作成も可能 民間と同等の安さで利用できる |
民間の退職代行の場合、退職届の代筆ができません。退職届は「本人が退職したい意思があるのか」を確認する書類のため、原則として本人が作成しなくてはならないのです。行政書士の場合は、書類作成に関する業務が可能な国家資格者なので、退職届の代筆も許可されています。また、退職届を郵送したことを証明できる「内容証明書」の作成も代行可能です。代行料金は民間より高いですが、書類作成を代行してほしいのであれば、行政書士の退職代行を利用するとよいでしょう。
司法書士・社労士が運営する退職代行との違い
行政書士と司法書士・社労士の退職代行の主な違いは、会社との交渉ができるかどうかです。具体的な違いについて、以下にまとめましたのでご覧ください。
司法書士・社労士が運営する退職代行 | 行政書士の退職代行 | |
運営元 | 司法書士・社労士 | 行政書士 |
料金 | 〈司法書士〉
30,000~60,000円 〈社労士〉 20,000~50,000円 |
30,000〜50,000円 |
対応範囲 | 〈司法書士〉
認定司法書士であれば、140万円以下のトラブルに関する交渉が可能 〈社労士〉 職場環境に関する知識が豊富なので、退職に関する相談に対して、専門的に対応してもらえる |
退職意思の伝達
退職届の代筆 |
得意領域・特徴 | 〈司法書士〉
認定司法書士・特定社労士であれば、制限があるものの、会社との交渉が可能 弁護士よりも安く利用できる 通常の司法書士・社労士であれば、あまり違いがない |
退職届をはじめとした書類作成が得意
内容証明書の作成も可能 民間と同等の安さで利用できる |
行政書士の場合、退職日の調整や有休取得などに関して、会社と交渉する権限がありません。退職に際して会社と何らかのトラブルが生じている場合、行政書士だと対応しきれない可能性もあります。司法書士や社労士の場合、認定や特定の資格を持っていれば、会社と交渉可能な場合もあります。急な退職やトラブルなどで、会社との交渉も依頼したい場合は、認定司法書士や特定社労士の退職代行がおすすめです。ただし、通常の資格であれば、ほかと大きな違いがなく、交渉もできないので注意しましょう。
行政書士が運営する退職代行の4つの特徴
行政書士が運営する退職代行には、4つの特徴があります。書類作成に関するメリットだけでなく、交渉や料金面のデメリットもあるので注意が必要です。
【行政書士が運営する退職代行の4つの特徴】
- 書類作成に強みがある
- 交渉はできない
- 料金は民間より高め
- 守秘義務がある
この後の項目では、行政書士が運営する退職代行の特徴を詳しく解説します。これから行政書士に退職代行を依頼しようと考えている方は、契約前に以下の内容をご確認ください。
書類作成に強みがある
前述の通り、書類作成ができる点は司法書士が運営する退職代行の強みです。国家資格者である行政書士は、官公庁に提出する書類の作成や送付が依頼できます。民間の退職代行の場合は退職届の作成ができないので、自分で作成しなくてはなりません。ケガや病気などで退職届の作成や送付が難しいのであれば、行政書士に依頼するのをおすすめします。また、内容証明書を作成できるのも司法書士の強みでしょう。内容証明書は、内容証明郵便を利用する際に必要になるものです。内容証明郵便では「誰が・どこに・どんなものを送ったか」を証明できます。確かに退職届を会社へ郵送したと証明でき、後々のトラブルを回避できるのが内容証明郵便のメリットです。自分で内容証明書を作成するのは大変なので、利用したい場合は書類の作成を依頼すると良いでしょう。
【作成してもらえる書類の例】
- 退職届
- 内容証明書
交渉はできない
行政書士が運営する退職代行では、会社との交渉ができません。弁護士でない人が、退職日の調整や有給休暇の取得に関する交渉をしてしまうと、非弁行為になってしまうためです。非弁行為とは、以下のようなものを指します。
【弁護士法 第72条】
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
【引用:e-gov「弁護士法」】
弁護士資格のない人が、報酬を得る目的で弁護士しかできない行為をすると、非弁行為になります。司法書士は弁護士ではないので、弁護士が可能な「給料や退職などに関する交渉」はできません。会社との交渉が必要なのであれば、弁護士に依頼したほうが良いでしょう。なお、会社との交渉が必要になるケースとしては「有給休暇の取得」「退職金の支払い」「残業代未払いトラブル」などがあります。以下に、会社との交渉が必要になるケースについてまとめますので、参考にしてください。
【交渉が必要になるケース】
- 有給休暇が取得できない
- 退職金が支払われない
- 残業代が未払いになっている
- 退職日の調整が必要
料金は民間より高め
行政書士の退職代行は、民間よりも若干高めになっています。退職代行に関して、運営元による料金相場の違いを見てみましょう。
退職代行の種類 | 料金相場 |
行政書士 | 30,000〜50,000円 |
民間 | 10,000〜30,000円 |
司法書士 | 30,000~60,000円 |
社労士 | 20,000~50,000円 |
弁護士 | 50,000〜150,000円 |
上記のように、行政書士の退職代行の料金相場は「30,000〜50,000円」です。 民間の業者よりは高く、司法書士や社労士と同等の料金相場となっています。弁護士よりは安く利用できるので、会社との交渉が必須でないのであれば行政書士の退職代行はおすすめです。逆に、料金の安さを重視する方だと、行政書士の退職代行はあまり適していないでしょう。
守秘義務がある
行政書士は、業務上知り得た情報を漏らしてはいけないと、行政書士法で定められています。守秘義務に関しては「行政書士法 第12条」で定められているものです。
【行政書士法 第12条】
(秘密を守る義務)
第十二条 行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。
【引用:e-gov「行政書士法」】
上記のように、行政書士は正当な理由がなければ、退職代行において知った情報を外部に漏らすことはできません。この守秘義務は、行政書士を辞めた後にも有効とされています。退職代行を利用する際「代行を使ったと周囲に噂されるのでは」と心配する方もいるでしょう。しかし、行政書士の退職代行であれば、少なくとも行政書士から情報が漏れることはありませんので、安心して利用できます。
行政書士が運営する退職代行へ依頼する際の3つのポイント
行政書士が運営する退職代行を依頼する場合は、選び方に注意が必要です。行政書士は、民間よりも料金が高く、依頼できる内容にも制限があります。選び方を知らないと、自分が依頼したい内容に対応してもらえない可能性もあるのです。
【行政書士が運営する退職代行へ依頼する際の3つのポイント】
- 費用がいくらか確認する
- 退職代行の実績があるか確認する
- 自分の要件に合っているか確認する
この後の項目では、行政書士が運営する退職代行へ依頼する際のポイントを3つご紹介します。どの退職代行を利用すればよいか分からず悩んでいる方は、ぜひ以下の内容を参考にしてください。
費用がいくらか確認する
退職代行を利用する場合は、費用を細かく確認しましょう。退職代行は、着手金・成功報酬・日当などさまざまな料金がかかります。業者によって、追加報酬が発生するか、また相談料や日当が無料かなどが異なるので、事前の確認が必須です。追加報酬が発生する場合は、最大でいくらくらいになるかを聞いておきましょう。詳しい料金プランを提示してもらえない場合は、後からさまざまな費用を上乗せされてしまう可能性があり危険です。料金を明示してもらえない場合は、信用できない退職代行業者かもしれませんので、利用を控えるのが無難です。
【退職代行の費用内訳】
- 相談・カウンセリング料(無料の場合あり)
- 着手金(前金のようなもの)
- 成功報酬(退職に際して得たお金の20〜30%)
- 日当や実費(かからないケースもあり)
退職代行の実績があるか確認する
退職代行の実績があるかも、利用前に調べておきましょう。行政書士は退職代行以外の仕事がメインの場合も多く、退職代行はほとんど行っていない可能性もあります。退職代行に慣れていないと、会社とのやり取りがうまくいかず、スムーズに退職できないかもしれません。特に、契約社員は退職に関する制限が厳しいので、退職代行に慣れていない行政書士だと、会社側から退職を拒否されるケースも考えられるでしょう。会社と大きなトラブルを起こさず退職をするためにも、退職代行に慣れている行政書士を選ぶのがとても大切です。実績を見る際は、以下のポイントに注目してみてください。
【実績を見る際のポイント】
- これまで退職代行を何件ほど行ってきたか
- 退職代行の成功率は何%程度か
- 社外サイトの口コミ・レビューはどうか
- (自分が契約社員の場合)契約社員の退職代行実績があるか
自分の要件に合っているか確認する
退職代行を依頼する際は、まず自分の要件をしっかりと洗い出しておきましょう。自分が何を依頼したいかが定まっていないと、退職代行を選ぶのが難しくなります。また、契約を結んでから、自分の要件に合っていなかったと気付くトラブルも発生するかもしれません。自分の要件を洗い出しておけば、民間・行政書士・弁護士・社労士・司法書士のうちどれを選ぶかも定まりやすいでしょう。また、業者ごとの比較もしやすくなります。退職代行業者を調べ始めるまえに、まず「何を依頼したいのか」を明確にしておくのが大切です。
【要件チェックリスト】
- 予算はどのくらいか
- 退職届は自分で作成するか、依頼するか
- 退職日や有給取得などに関して交渉を依頼するか
- 裁判に発展する可能性があるか
行政書士が運営する退職代行が向いている人
行政書士が運営する退職代行が向いている人は、退職届や内容証明書を作成してほしい人です。行政書士の強みは、書類作成や送付です。退職届や内容証明書を作成してほしい場合は、行政書士が運営する退職代行が最も適していると言えます。また、会社との交渉が必要ない方も、行政書士を利用するのが適しています。行政書士は、会社と交渉する権限がありません。有給や給与などに関して交渉しなくてはならない場合は、行政書士だと対応が難しいでしょう。逆に、会社と交渉する問題がないのであれば、行政書士が適しています。このように、書類作成をしてほしい方や、会社との交渉がない人は、行政書士が運営する退職代行を利用するのがおすすめです。
【行政書士が運営する退職代行が向いている人】
- 会社と給与や有給に関する交渉の必要がない方
- 退職届を自分で作成できない・したくない方
- 内容証明書を作成してほしい方
行政書士が運営する退職代行が向いていない人
行政書士が運営する退職代行が向いていない人は、会社と何らかの交渉を必要とする人です。退職日の調整や、有給取得に関してなど交渉を依頼したい場合は、行政書士だと対応できません。会社との交渉が必要なのであれば、弁護士に依頼するのが一番確実です。また、とにかく安い退職代行を利用したい方も、行政書士はおすすめできません。民間に比べると、行政書士は15,000円ほど料金相場が高くなっています。料金の安さを重視する方は、民間の退職代行業者を利用したほうが良いでしょう。ただし、あまりに料金が安い業者はサービス品質に問題がある場合もありますので、事前にしっかりと調べたうえで利用してください。
【行政書士が運営する退職代行が向いていない人】
- 会社と何らかの交渉が必要な方
- 一番安い退職代行を利用したい方
まとめ
行政書士が運営する退職代行は、退職届や内容証明書などを作成・送付してくれるのが強みです。書類作成を依頼したいと考えている方であれば、行政書士の退職代行をおすすめします。一方で、会社との交渉ができなかったり、民間よりも料金が高めなのは行政書士のデメリットでしょう。会社との交渉を依頼したい場合は、弁護士に依頼するのをおすすめします。行政書士のメリット・デメリットをどちらも把握したうえで、自分に最適な退職代行サービスを探してみてください。