「残業は1日10時間まで」「辞めるなら迷惑料、500万円払え」ブラック企業体験イベントに潜入調査

最終更新日 2019年10月4日
実際に行われている企業内パワハラ、モラハラを疑似体験することができるというブラック企業体験イベントが“勤労感謝の日”の11月23日に都内で行われた。退職代行サービス「EXIT」の社員としてブラック企業の実態を把握すべくイベントに参加し、架空のブラック企業「スーパーミラクルハッピー株式会社」に潜入した。
ざきおか
「新入社員は30分前には出社して掃除するのが当然」
始業の15分前にオフィスに出社。揃っていた同期の新入社員たちと一緒に受付へ。受付をしていただいた先輩社員に挨拶。
ざきおか:おはようございます。
受付社員:遅い。新入社員は始業の30分前には出社して掃除するの。
早速洗礼を受けながらも社員証、名刺を受け取りオフィスへ入室。受付で記名したタイムカードはなぜかそのまま回収された。
新入社員一同:おはようございます。
先輩一同:おはよう!!!ございます!!!
新入社員一同:(唖然)
バイオレンス先輩:声が小せえ!!!おはようございます!!!
ハチマキ先輩:新入社員はな、始業前の掃除は仕事だからな。
始業前の掃除を始める新入社員。掃除中の先輩社員からのプレッシャーがすごい。この時点で精神的な擦り減りが半端ではない。

監視されているというプレッシャー
「掃除と朝礼は仕事ではない。 by スーパーミラクルハッピー」
新入社員全員が揃い、社訓斉唱から朝礼が始まる。

社訓以外にもあちこちにおかしい張り紙が…
ハチマキ先輩:それでは早速、社訓斉唱に移りたいと思います!起立!!!
ハチマキ先輩:復唱!私たちは!人類の健康に!寄与します!!!
新入社員一同:私たちは!人類の健康に!寄与します!
ハチマキ先輩:スーパー!ミラクル!ハッピー!!!(謎のポーズ)
新入社員一同:スーパー!ミラクル!ハッピー!
ハチマキ先輩:ジャンプしろよ!!!やれよ!!!必要なんだよこのポーズが!!!
社訓斉唱と謎のポーズ。声が小さい、揃ってないということがあれば連帯責任で何度でもやり直させられる。声が小さい同期は叩かれ罵られている。そしてなぜか先導して社訓を読み上げさせられる私。当然ポーズは全力。入社30分ではあるがすでに辞めたい。

社訓を読み上げさせられるざきおか

「スーパーミラクルハッピー!」の掛け声と謎ポーズ
ハチマキ先輩:それでは、朝礼は以上とする。
女先輩:それでは皆さんのタイムカードはこちらで切っておきますねー。
掃除、朝礼は1日を気持ちよく過ごすためのウォーミングアップ。仕事ではないので給与は発生しない。
「モノを売った奴が“神”、売れない奴は“クズ”」
スーパーミラクルハッピーの売れ筋商品“ツボ押しX2018”(定価30万円)の訪問販売についての営業研修がスタート。「営業成績を伸ばして“神”として称えられるべく頑張りましょう」と営業部長からのお言葉。
先輩社員の「ターゲットは独居老人」「どんなことをしてでも契約に持っていけ」というアドバイスを元に実際にロールプレイをさせられる。しかし、あまり感情を出すのが得意ではなさそうな同期は営業がうまくいかず、“感情のぶつかり稽古”と称して罵詈雑言を浴びせられる。先輩社員からだけではなく、新入社員の同期にまで罵られ、ついには泣き出してしまう。それを見た先輩社員たちからは「感情が出てきてよかったな」と賞賛の拍手。とてつもなく異様な光景に流石に引いてしまう。

新入社員の同期にも罵らせる

感情のぶつかり稽古
新入社員のロールプレイ中に「先輩なのに頑張ってないやつがいる」ということで別席で仕事をしていた先輩が呼び出される。先月のノルマ未達成の先輩に対して「今すぐ家族に電話して売り付けろ」と社員の前で家族へ電話をさせ、強引に売りつけさせていた。

社員の前で家族に営業電話をかけさせられる
「後輩の提案は先輩のもの、先輩のボーナスは先輩のもの」
社長面談ということで社員揃って社長室へ。

社長と副社長
社長:そこの新入社員。クミコ(副社長)はね、占いが得意なんだよ。
副社長:その子と私たちの相性、最悪。
社長:そんな顔してると思ったんだよ。君、クビね。
クビにされた新入社員同期の表情が明るかったように見えたのはおそらく気のせいではない、が、しかし。
副社長:待って。大丈夫、いいものあげる。私が作った水晶のお守り。これがあれば大丈夫。3万円ね。
社長:本当にクミコは優しいな。
お守り代の3万円は当然のように給与から天引きされる。同期、可哀想である。
社長:私は、人類の世界平和と健康に貢献したいと思っている。そして、人類にスーパーミラクルハッピーを届けたい!スーパー!ミラクル!ハッピー!!!(謎のポーズ)
一同:スーパー!ミラクル!ハッピー!(謎のポーズ)
そろそろ楽しくなってきた。社長室だけで10回くらいやったのではないだろうか。

「スーパーミラクルハッピー!」
入社前に宿題として課されていた健康器具販売に関する企画書を社長に提出する。ほとんどの企画がボツになるも、1つの企画が社長の目に留まり気に入られた模様。
社長:この企画を考えたのは誰だ?
長身同期:私で…
ハチマキ先輩:私です!(嘘)私の企画も新入社員の中に混ぜておいたのです!(大嘘)
長身同期:(苦笑い)
同期の企画は先輩社員に横取りされ、横取りした先輩社員はその場でボーナスを受け取っていた。同期、可哀想である。
ボツになった企画書は目の前でビリビリに破り捨てられた。

ボツになった企画は目の前で破り捨てられた
「突然の監査に大慌て」
社長面談を終え、続いて訪問販売を実際に外へ出て行うというところでオフィスへ電話が入る。
バイオレンス先輩:なんだと、おい。大変です、労基が向かってるみたいです。この中にチクりやがった奴がいるみたいです。
この知らせに「疑わしいものは隠せ!」「何も答えるなよ!」「新入社員だからわかりませんと言え!」と先輩社員たちは大慌て。今日イチの展開に流石に笑いがこみ上げる。

「面白くなってきた」と言わんばかりの表情
労基:社員へのヒアリングをさせていただきます。先月の賃金はきちんと払われていますか?
女同期:新入社員なんで分かりません。
労基:有休はいつからどの程度与えられているか説明は受けていますか?
長身同期:新入社員なんで分かりません。
労基:今日のお昼休憩はちゃんと1時間取られましたか?
ざきおか:新入社員なんで分かりません。
労基もヒアリングを終え、後日連絡を行うと言い残し撤収。
ハチマキ先輩:こんなに頑張って仕事してんのに、なんで労基にイジメられなきゃいけないんだよ!お前らもボケっとしてんな!連帯責任だ!社訓読み上げ100回行くぞ!
告発者:もうやめて下さい!申告したのは私です。こんなの全部ただのイジメです。私もうこんな会社辞めます!
ハチマキ先輩:分かったよ。いいよ、辞めても。その代わり、会社に迷惑かける分の500万円払ったらな。
告発者:え…そんなの無理です…。
ハチマキ先輩:払ったら辞めてもいいって言ってんだよ!!!借金してでも払えよ!!!
理不尽な罰金と大声によるプレッシャーからどうしたら良いか分からなくなった社員は、塞ぎ込んでしまうが、先輩社員の「もう少し続けてみるか?」の声に「はい。」と返事をさせられてしまう。

退職を申し出るも、結局丸め込まれてしまう
「ようやく終業…?」
女先輩:就業時間になりましたのでタイムカードを切らせていただきまーす。
やっと終業かと思えば、
ハチマキ先輩:はい、それじゃみんな業務の続きよろしくね。
当然のように残業宣告。ここからさらに反省文を書かされ、全員の前で読み上げたり、山のように手書きのダイレクトメールを課される。先輩社員たちは社長と“夜の打ち合わせ”があるということで見張りの社員を残して退勤。さて張り切って残業しますか〜、というところでようやくイベントの終了が告げられる。
時間としてはおよそ90分のイベントでしたが体感としては丸1日働き詰めたかのような疲労感。逃げ出せるのであればすぐにでも退職届を叩きつけたいところだったが、面と向かって「500万円支払え」と言われているのを見ればそんな気もなくなってしまう。

90分で燃え尽きてしまったざきおか
今回のイベントは「現存する企業のおよそ3分の1はブラック企業」とされる日本で実際に起きた出来事をもとに構成されているという。ブラック企業と分かっていながら声を出せない、逃げ出せない働き手がそれだけいるという事実。退職代行サービス「EXIT」がそういった働き手の背中を押してあげられればと思う。
ライター:ざきおか
◎ブラック企業体験イベント「THE BLACK HOLIDAY」について
脚本は実際にあったと寄せられた話を基に、ブラック企業アナリストの新田龍氏が監修。企画した「株式会社人間」の花岡洋一代表は「実体験を通じて働き方を見直す機会になれば」と狙いを説明した。自身も先輩社員として出演し、演出を担当された「劇団子供鉅人」の益山貴司氏は「(参加者が)従順すぎて、演じてると分かっていても行動がエスカレートしていって怖かった」と実際の現場で起こりうる状況を振り返っていた。
◎EXIT −退職代行サービス−とは?
EXIT株式会社が提供するサービスで、「辞めさせてもらえない」「会社と連絡を取りたくない」などの退職におけるさまざまな問題に合わせ、退職に関する連絡を代行してくれる。相談当日から即日対応が可能で、 会社との連絡は不要。離職票や源泉徴収票の発行確認など、退職後のフォローも行ってくれる。